シャドーIT・シャドーSaaSがISMS運用に与える影響と対策
クラウドサービスの普及に伴い、「シャドーIT」「シャドーSaaS」によるセキュリティリスクが増加しています。クラウドサービスの活用は業務効率化につながる一方で、企業が把握していないサービスやツールの利用によって、情報漏えいなどのセキュリティリスクを招くおそれがあります。
ここでは、組織の信頼を揺るがす前に講じたい対策として、シャドーIT・シャドーSaaSがISMS運用に与える影響と、ISMSに沿った具体的な対策を徹底解説します。
シャドーIT・シャドーSaaSとは?ISMSで問題になる理由
シャドーIT・シャドーSaaSとは、管理部門の許可なく現場の判断で導入・利用されているIT機器やクラウドサービスを指します。一見すると業務効率化につながるように見えても、情報資産の把握と適切な管理が求められるISMS運用においては、管理上の盲点となります。
ここからは、なぜ無断利用がISMSで問題になるのかを解説します。
シャドーITとは
シャドーITとは、IT部門が承認・把握していないIT機器やクラウドサービスの利用を指します。
テレワークの普及やクラウドサービスの手軽さを背景に、個人のGoogleドライブへの資料保管や、部門の判断によるChatGPTの業務利用など、IT部門が把握していないサービスの利用が増えています。
シャドーSaaSが増えている背景
シャドーSaaSが増えている背景には、主に3つの理由があります。
1つ目は、無料プランで手軽に試せるSaaSが増えていること、2つ目は、部門決済用カードなどを使ってIT部門を介さず購入できること、3つ目は、生成AIなどの新しいサービスが登場し、現場の判断で利用されるケースが増えていることです。
こうした利便性と手軽さが、SaaSの導入を加速させています。
ISMSで
シャドーITが問題になる理由
ISMS(ISO/IEC 27001)では、情報資産を把握し、適切に管理することが求められています。附属書Aにも、情報およびその他の関連資産のインベントリ(A.5.9)やアクセス制御(A.5.15)など、情報資産やアクセスを管理するための管理策が定められています。
台帳に登録されていないシャドーITが存在すると、情報資産の把握や管理が十分に行われていない状態につながります。そのため、セキュリティ事故だけでなく、ISMS審査で不適合を指摘される原因にもなります。
シャドーIT・シャドーSaaSが
ISMS運用にもたらす3つのリスク
管理外で利用されるシャドーIT・シャドーSaaSは、業務効率化の裏でISMSの適切な運用を妨げる要因になります。ここからは、単なるセキュリティ上の脆弱性にとどまらず、組織全体の運用や審査にも影響する「3つのリスク」を解説します。
①情報資産台帳から漏れて
情報漏えいにつながる
台帳に未登録のSaaSには、管理部門の知らないうちに顧客リストや契約書などの重要なデータが蓄積されることがあります。特に注意したいのが、退職者アカウントの放置です。
適切なアカウント管理が行われないまま従業員が退職すると、IDが有効なまま放置され、競合他社への機密データの持ち出しや第三者による不正アクセスを引き起こすおそれがあります。
ガバナンスの及ばない領域でデータが放置され、情報が持ち出されるケースは、組織の信頼を大きく損なうトラブルにつながります。
②アクセス管理が不十分で
ISMS審査で指摘される
シャドーITでは、多要素認証の未設定、権限の過剰付与、退職者IDの残存といった、基本的なアクセス管理が徹底されていないケースがあります。
ISMS審査では、アクセス制御の妥当性や情報資産の管理状況などが確認されます。未把握のSaaSが発覚すると、単なる台帳の記載漏れにとどまらず、情報資産の把握やアクセス管理のプロセスが十分に機能していないと判断される可能性があります。
その結果、運用上の不適合などとして指摘され、是正処置を求められることがあります。
③委託先管理・責任共有モデルの
前提が崩れる
ISMSでは、外部のSaaS事業者を含むサプライヤーとの関係について、情報セキュリティ上のリスクを評価し、必要な管理を行うことが求められます。
しかし、把握していないシャドーSaaSは、こうした評価や確認のプロセスを経ていないため、事業者の安全性やサービス品質、契約上の責任範囲などを十分に確認できません。さらに、クラウドサービスの安全な運用には、SaaS事業者側と自組織の役割分担を明確にすることも重要です。自組織の責任範囲を認識・管理できていない状態では、万一の障害や事故が発生した際に、必要な対応を迅速に判断・実施できないおそれがあります。
シャドーIT・シャドーSaaSを
見つけ出すステップ
シャドーIT対策は、まず現状を把握することから始まります。無断利用を放置したままでは、健全なISMS運用は難しくなります。ここからは、現場の実務で活用できる「可視化のための実践的な進め方」をわかりやすく解説します。
ログや経費データから
SaaSを洗い出す
利用されているSaaSの検出には、多角的なアプローチが必要です。Webアクセスの確認にはプロキシやSWG、シングルサインオンの状況把握にはIdP(ID管理サービス)のログ分析が有効です。
さらに、無料版から有料化したケースは、経費精算データや法人カードの利用明細から特定できます。
1つの手段だけでは漏れが生じるため、ネットワークと会計の両面から複数のデータを突き合わせることが、網羅的に洗い出すコツです。
現場ヒアリングで実態をつかむ
ログや会計データだけでは見つけられない、個人アカウントの利用や無料SaaSも存在します。実態を把握するため、各部門への丁寧なヒアリング調査を実施しましょう。
確認すべき項目は、次の4点です。
- 利用中のSaaS名
- 利用目的
- 入力しているデータの種類(機密性のレベル)
- 利用人数
現場の業務プロセスに踏み込んでヒアリングすることで、実際の利用状況が見えてきます。
シャドーIT・シャドーSaaSの
利用ルールと運用体制
検出したSaaSは放置せず、適切に管理・運用する仕組みを作ることが重要です。
ここからは、業務の効率化を阻害せずにリスクを抑えるための、検出したSaaSの扱い方とISMSに沿ったルール・運用体制の整え方を詳しく解説します。
「許可」「条件付き許可」
「禁止」の3つに分ける
検出したSaaSは無条件に排除するのではなく、「許可」「条件付き許可」「禁止」の3区分に分類して評価・整理します。
利便性を損なわずに安全性を担保するため、区分ごとにリスクに応じたセキュリティ統制(多要素認証・ログ取得・契約書のチェックなど)を割り当てて管理することがポイントです。
許可
| 対象となるSaaSの条件 | ・社内標準ツール ・安全性評価・契約確認済みのSaaS |
|---|---|
| 求める主な統制・ セキュリティ要件 |
・IdP連携(SSO)および多要素認証(MFA)の適用 ・アクセスログ・操作ログの定期チェック ・台帳への登録と定期的なアクセス権限の棚卸し |
条件付き許可
| 対象となるSaaSの条件 | ・業務上必要だが一部リスクがあるツール (例:無料版など) |
|---|---|
| 求める主な統制・ セキュリティ要件 |
・取り扱い可能なデータ種別の制限 (機密・個人情報の入力禁止) ・利用人数の制限や特定IPからのアクセス制限 ・利用期限の設定とログ監視 |
禁止
| 対象となるSaaSの条件 | ・安全性評価を満たさない、または業務利用に不適切なSaaS |
|---|---|
| 求める主な統制・ セキュリティ要件 |
・ネットワークレベル(SWG・プロキシ)でのアクセスブロック ・端末側でのインストール制限・利用禁止の周知徹底 |
従業員教育と
利用申請フローを整える
「勝手に使わない」を徹底するには、次の2つが必要です。
- ①ルールを教える機会(年1回の集合研修、新入社員教育、随時のリマインド)
- ②新しくSaaSを使いたいときの申請ルート
①の具体例としては、年1回のセキュリティ研修や新入社員教育に加え、社内チャットなどで他社の事故事例を共有し、「なぜ無断利用が危険なのか」を継続的に啓発します。
②の具体例としては、新しくSaaSを使いたいときの申請フォームを一本化します。さらに、用途やデータ種別を選択するだけの簡便なルートを整え、承認までを迅速化することで、現場による無断利用を防ぎやすくします。
SSPM・CASBなどの
検知ツールの使いどころ
CASBやSSPMは、シャドーSaaSの検知やSaaSの設定状況の監査などに活用できますが、自組織の情報資産台帳や評価基準などの運用軸が曖昧なまま導入しても、十分に活用できません。
まずは、台帳の粒度を揃え、ルールと分類基準を確立したうえで導入することで、ツールの機能を活かせます。
コンサル活用が近道
可視化からルール策定、教育、ツール導入といった一連のプロセスを、通常業務と並行して組織内のリソースだけで完結させるのは容易ではありません。
実効性のあるISMS運用を短期間で目指すなら、専門コンサルタントの活用が非常に効率的です。
コンサルタントは、ログ分析やアンケートによる「棚卸し代行」、自社の状況に合わせた「規程・手順書の策定支援」、専門的な視点による「内部監査代行」、実効性の高い「従業員教育コンテンツの提供」まで幅広く支援します。
自組織の負担を最小限に抑えつつ、審査にも耐えうる確実な管理体制を最短で構築できる点が大きなメリットです。
まとめ
クラウドサービスの普及に伴い増えているシャドーIT・シャドーSaaSは、ISMS運用における重要な管理上の課題です。しかし、やみくもに全面禁止するのではなく、実態に即したアプローチが求められます。
対策は「現状の見つけ出し」から始め、「利用ルールの明確化」「継続的な従業員教育」「ツールの導入検討」、そして「自組織での運用が難しければコンサル活用」という順序で進めるのが現実的です。
現場の利便性を損なわずにセキュリティ統制を効かせ、ISMS審査にも対応できる強固なガバナンス体制を築いていきましょう。
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